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東京高等裁判所 昭和47年(ネ)1379号 判決 1973年10月31日

控訴人 高島昭三男

右訴訟代理人弁護士 貝塚次郎

被控訴人 田中実

右訴訟代理人弁護士 柴義和

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係≪省略≫

理由

当裁判所も、原判決の判示のとおり、大正土地株式会社(大正土地と略称)は資本金百万円、社員数名にすぎない小企業で、会社の重要業務は控訴人、訴外野口武二、同植村正行らによって運営されていたが、昭和四三年四月頃資金ぐりに困窮し、高利貸にその担保のために本件土地を含む分譲土地について所有権移転請求権仮登記を経由しており、その財務状況から右仮登記の抹消を受けることは不可能であると予測されたにも拘らず、右仮登記の事実を被控訴人に告げることなく、同月七日被控訴人に本件土地の購入をすすめて売買契約をし、同月中に代金の全額一、五六四、〇〇〇円を受取っていること、また、控訴人が当時大正土地の代表取締役の職にあったことを認めることができる(本件土地の売買契約が締結され、代金の授受のあったことについては、当事者間に争いがない)。その理由は原判決の理由と同一であるので、原判決四丁裏四行目から六丁裏四行目までの記載をここに引用する(ただし、原判決五丁表一行目「原、被告各本人尋問」の次に(被告本人尋問は、当審および原審)を挿入する。)。控訴人は、控訴人が商法二六六条の三にいう取締役に当らないと抗争するが、≪証拠省略≫によると、控訴人は大正土地の事実上の使用人という低い地位ではなく、代表取締役として資金ぐりその他会社の重要な業務に従事していたことが認められるので、右控訴人の主張は採用することができない。

これらの事実に照すと、本件取引当時の大正土地の営業規模および財務状態に鑑み、控訴人が本件土地の取引の重要部分に直接関与せずまた右仮登記のなされていることを知悉していなかったとしても、代表取締役として分譲土地につき右のような負担の有無および負担抹消の能否を確かめ、分譲土地の買主に対し不測の損失をもたらさないよう配慮すべき職務上の義務があるものと解すべきところ、控訴人が本件取引を担当社員に一任して放置し、特段の監督指示もせず、ついに、前記認定の如く右仮登記の負担を秘して所有権移転登記をし右仮登記を抹消できないため本件売買契約解除に至らしめたことは代表取締役としてその職務を行なうについて重大な過失があったというべきであり、商法二六六条の三により、控訴人はその職務懈怠にかかる本件土地の取引によって被控訴人の蒙った損害を賠償する責任があるものと解する。

進んで、右損害額を検討する。被控訴人が右仮登記の抹消がなされないことを理由に売買契約を解除したこと、昭和四三年一二月頃売主たる大正土地が事実上倒産したことは前示認定のとおりで、その結果、被控訴人が売買代金一、五六四、〇〇〇円およびこれに対する支払日以後の利息(民法五四五条二項)を売主たる大正土地より回収することが不能となったことは弁論の全趣旨によって窺知できる。それ故、被控訴人は少くとも右額相当の損害を被ったものというべく、この損害と前示控訴人の職務懈怠との間には相当因果関係があると考える。

よって、被控訴人が控訴人に対し損害賠償として本件土地の売買代金一、五六四、〇〇〇円とこれに対する右代金の支払後である昭和四三年五月一日以降完済まで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める本訴請求は正当である。

よって、原判決は相当であるので、本件控訴を棄却することとし、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤利夫 裁判官 吉江清景 山田二郎)

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